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CCUから愛を込めて。

退院

 今年三度目の救急搬送。救急車を呼ぶ事にもう躊躇いはなかった。1月5日脳梗塞、2月5日心不全、そして4月28日またもや心不全。奇しくもこの日は25年前に僧帽弁置換術を施行した日でもあった。
 GWのさ中でもあり、到着した三井記念病院の救急センターはいつもより運び込まれる患者が少なく閑散としていた。通常であれば2,3人の若い研修医が待ち受けている筈だったが、その研修医たちはは18時で早々に切り上げてしまったようだ。
 急患の連絡を聞き駆け付けた当直の医師がわたしの顔を見るなり話掛けて来た。「あら、神戸さんお久しぶりね、わたしの事覚えてる?」「覚えてますよー、忘れる筈がないです」とお互いに笑顔で挨拶代わりの会話を交わした。
 4年前になるだろうか…、やはり同じく救急外来に心不全で駆け込んだ時の担当医がこのY女医であった。いつものように左腕にラインを取りながら彼女は呟いた。
「研修医たちは?」看護師の一人が応える「18時で帰りましたよ」「あっそう…GWだからね」全て一人で対応しなければならない事に苛立ちを見せながら、右手首の動脈から採血を始める。
 救急隊員から症状の報告を聞きつつ、手馴れた手付きで電子カルテの内容をチェックしていた。血液検査の結果が届くと、今の状態を詳しく話してくれた。「ワーファリンが過剰に効きすぎて、いつ何処から出血してもおかしくないです…」この言葉の意味を瞬時にわたしは重く受け止めた。脳裏を過ぎったのは「脳内出血」だった。
 本来であれば前回と同様にバルーンを尿道に挿入するところであるが、管が尿道を傷付けて出血する可能性が高い事から今回は見合わせる事となったが、わたしとしてはその辛さを知っていたのでほっと胸をなで下ろした。
 然し、今回このタイミングでの緊急入院も脳梗塞の時と同様に、何処か神懸かり的な部分を含んでいるような気がしてならない。つまり、担当医が言った「どこから出血してもおかしくない状態」と言うのは、脳内出血のリスクがかなり高まっていた事を示唆してるからだ。
 19歳の時、静岡市立病院で弁形成術を受けたが、その時に不思議な話を聞いて驚いた事がある。わたしの父はその一年前に亡くなっていたのだが、わたしが手術のため入院した時に、親戚の伯母の枕元に父が現れ、伯母にこう告げたと言う「俊樹が心臓の手術で入院しているから見舞いに行ってやってくれ…」。それは一週間続いたと言う。
 伯母は余りにもしつこいので父に向かってこう言った「あんまりしつこいと行ってやらないよ」。次の日から父の姿は見えなくなったと言う。
 わたしのところには一度も現れる事はなかった父であるが、この広い空の何処かで今でも見守ってくれているような気がしてならない。
 CCUに二日、循環器専門病棟に1日、そして今回は4年前にお世話になった17階の一般病棟へ。迎えてくれた看護師さんたち、循環器病棟でもそうであったが笑顔で話し掛けて来てくれた。
「神戸さん以前にも入院してますよね…」「はい、また戻って来ました」新人ナース以外は殆ど顔見知りなので会話もスムーズである。
 さて、医療にある程度詳しい人であれば、この胸部レントゲン写真を見てその異常な心臓を容易く見抜く事が出来ると思う。右側が5月9日、左側が28日の入院時に撮影したもの。心臓が大きく肥大している事が良くお分かり頂けるだろうか。
「神戸さんの心臓は至る所が悪くて血液の逆流も起こりかなり疲弊しています」「今回は利尿剤を増やさず食事療法と新たな薬(メインテート)の投与でここまで回復しました」。確かにそうだった。外来ではワーファリンの効果を下げる為に「ビタミンK」を点滴したほどであるが、前回の時のように「ワソラン」「ラシックス」と言った心不全治療に於ける定番の薬は一切使用しなかった。
 ヘパリンの点滴はワーファリンの効果が安定するまで続いたが、それも早めに終わった。入院二日目から食事が出たのであるが、その内容に戸惑ってしまった。それもその筈でいつもの心臓食ではなく「腎不全食」だったからである。
 心臓食よりも更に制限の厳しい腎不全食は、カロリー1600、塩分6グラム、それに加えて蛋白制限がある。病院で出された食事は蛋白40グラム。
 中学1年の時に食べた腎臓食以来であり、最初は何かの間違いかと思ったほどであるが、心臓と腎臓は密接な関係にあり、長い期間に渡り利尿剤のラシックスを服用して来た為に腎臓にかなり負担を掛けてしまっている。
 腎臓は一度悪くなってしまうともう後戻り出来ないほどデリケートな臓器である。心臓は以外とタフであり人間の臓器の中では最も丈夫に出来ている。腎臓をこれ異常悪化させない為に必要な事は負担をなるべく減らす事を心がけるしかないが、それは食事内容に大きく左右されるため、重要なポイントである。
 病気の為にわたしはこれまで多くのものを諦めて来た。然しその諦めた分それ以上のものを手に入れる事が出来たのも事実である。健康は手に入らないが健康である事の素晴らしさを知る事が出来たし、病気を通して様々な人たちと出会い触れ合う事も出来た。
 心臓病になっていなければ詩集を出版する事もなかったし、詩を書く事もしていなかっただろう。失ったものは確かに途方もなく大きいけれども、わたしは希望の光を常に絶やさず前を向いて歩く事を病気から教えて貰った気がしている。
 常に感謝の気持ちを忘れず直向きに生きて行こうと思っている。皆さん、これからもこのわたしをよろしくお願い致します。

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COMMENTS

ネリム
2013/05/11 (Sat) 16:39

退院おめでとうございます。
無理せずに更新して下さい。

MK
2013/05/11 (Sat) 18:32

ワーファリンえらい(泣)

当方、五月病(休み明けに心臓がサボり心房細動がひどくなる)も今年は発症せず、無難に連休後の出勤をこなしました。
但し、この処、左足の関節炎が酷くなり歩行する際、体のバランスを崩し打撲を負った事で右足を痛める事が二度ほどあり、その度に内出血で右足が腫れ上がっています。
ワーファリンの効果なのでしょうが、これを停めると、脳梗塞の危険性も増すわけで困りますね。
変形性関節炎が両下肢に及ぶため今年は左足だけでも人工関節に入れ替えようかと思っています。
但し、拡張型心筋症の絡みでワーファリンを服用しているため、循環器科と整形外科の連携が難しい処です。

マムチ
2013/05/11 (Sat) 20:34

俊樹さん

おかえりなさーーい♪
うんうん♪ずっと待ってましたよ^^v
今はあまり無理はしないように
少しずつ体を慣らしていって下さいね!!

俊樹さんの生き方はとても素晴らしいと思います♪
私もいつも勇気をいただいています!!
ありがとう♪

マライヒ☆
2013/05/11 (Sat) 21:39

私には、何も出来ないのが悔しい・・・
ただ頑張って下さいとしか言えないけど。。
ご無理をなさらずに・・状態が好転される事を
祈っています…心から願っています。

-
2013/05/11 (Sat) 21:41

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ココうさ
2013/05/11 (Sat) 22:40

おかえりなさい。
記事の最後の5行が心に沁みます。
どうぞご無理なさらず、お過ごしくださいね。

燃える朝やけ
2013/05/11 (Sat) 22:54

言葉がうまく出ません。
私も慢性的に胃痛だとか、メンタルの調子が芳しくないまま10年近くを費やしているとか
人よりは「不健康」「かわいそう」と言われる頻度が多い半生ですが、
記事を読んで「そんなことを言っている場合じゃない」と絶句してしまいます。

きっと私の想像できる範囲を大きく超えた苦しみだと思いますが、そういう中で、
「健康になれないぶん、健康のありがたさ」だとか「健康のかわりに沢山の物を得た」
などと感じ取ったり、発言したりすることができる俊樹さんは、男の中の男です!
言葉の力と、前向きの力に、どうか幸あれ!!

kiss
2013/05/12 (Sun) 00:57

俊樹さん
おかえりなさい
良かった無事で...

美香
2013/05/12 (Sun) 05:57

おかえりなさい^^

ブログ再開ですね(#^.^#)

どうぞ、無理をなさらないように・・・

孝ちゃんのパパ
2013/05/12 (Sun) 16:52

おかえりなさい・・・・・・・・・・・・・・・・
うまく言葉にすることができません。

僕には何もすることができないのが残念です。

ただ、僕にできること・・・・・・・・・・
今、紀伊国屋書店に電話して<天国の階段>注文しました。

俊樹さんの思いを感じてみます。

G-madam
2013/05/12 (Sun) 17:49

とりあえず安堵いたしました。
無理されないよう、ご自愛くださいね。

松井大門
2013/05/12 (Sun) 19:13

何かと展覧会の準備で忙しくて
訪問のほう遅れてどうもすいません

sepia
2013/05/12 (Sun) 22:06


健康に気を付けて
マイペースで更新してくださいね

-
2013/05/13 (Mon) 05:30

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俊樹
2013/05/13 (Mon) 12:23

Re: 銀次さん

ありがとうございました。
安心しましたよ。

> 今年に入り3度目の搬送、実際は心が折れそうになった瞬間もあったと思います。前向きに進んでいる俊樹さんに心から敬服いたします。
> 腎臓が悪くなるとカリウムが上がります。それは心臓にとっては危険なことです。今は腎への負担を減らすということで、あまり食事はおいしくないかもしれませんが我慢ですね(^_^;)腎臓は本当に大切な臓器で、大変な思いをしている患者さんはたくさんいます。俊樹さんは心臓のこともあるので大切にしてあげてください<(_ _)>
> ワーファリンのコントロールは確かに難しいんですが、専門病棟まである立派な病院ですので専門の先生にお任せで間違いはないと思います。私なんかがアドバイスするよりはずっと良いです(^_^;)
> すみません。ちょっと時間がないんで…また今晩か明日にでもコメントします(^_^;)

-
2013/05/13 (Mon) 23:35

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ミタ子
2013/05/15 (Wed) 00:17

お帰りなさい、俊樹さん。

ミタ子も「動脈管開存症」という心臓病だったけど、完治している。
諦めなければいけない事も、小4までの遠足と体育位で、
今も闘っている俊樹さんとは、比べ物にならないね。

無理をならないで、ブログ続けていってくださるといいな。

クロエ
2013/12/19 (Thu) 16:19

俊樹さま

余り知らずにいた 病気のことですが 本当に 大丈夫ですか?
叔父が医者だったのと 医者とお付き合いしたこともあって
今 怖いくらい 心配になりました。

どうか どうか 無理をせず お大事になさってください。

心臓病