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詩集 天国の地図 / 神戸 俊樹

¥1,260
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詩集・天国の地図(文芸社から頂いた書評一部抜粋)。

*作者が20歳から28歳までの間に綴られた、全62作品からなる詩集である。「あとがき」によれば、作者が詩に興味を持ったのは20歳の時だという。そして、最初に手にした詩集は『伊藤整詩集』と『高見順の死の淵より』の2冊だったとも記されている。
作者は幼いころ「心臓弁膜症」に罹患し、最初に手術を受けた時のことを回想して、『手術台に上がれば』を書いたとのことである。それをきっかけに、いつの間にか62作品の詩が出来上がっていたらしい。そして、心臓弁膜症に起因するうつ病を患い、現在は回復の途上にあると記されている。ここに本作品群の最大の特質があると言えるだろう。
「うつ病」を克服し、社会復帰を目指す作者の個人史が、その内面の必然性によって詩文の形に表出した、痛切ながら鮮やかな「青春物語」なのである。
*「記念すべき最初の詩」と作者自身が言う『手術台に上がれば』は、純粋な孤独感を表現した作品と言えるだろう。社会的な関係によって成立する作者の日常世界が、手術という出来事によって断ち切られ、それによって自覚された意識の反復が、言語世界として抽象化されている。
「けたたましい車の騒音が/私の耳をつんざく/ああ――/今日もまた彼等は/あの騒がしいラッシュアワーの中を/仕事に出掛けて行く/愚かな独り言を呟いて/私は又眼を閉じた」―― 「私」は「彼等」とは異なる世界に疎隔されている。かつては自分も所属し、ほとんど意識することもなかった日常世界、それが今は決定的に遠いものとなり、 もはやそこに自分の居場所はない。断念と諦念、その後に訪れた孤絶感の淵に作者は重く佇んでおり、本作品はそれを見事に描き切っているのである。

*『偽りの蒼い空』や『不安』といった作品も強く印象に残る。『偽りの蒼い空』は、破綻した「愛」を扱った詩である。 「荒涼とした海の上を/私の魂は彷徨っている/現在と過去が綾取りをして/記憶の中を交錯している」といった部分では、青春の詩人・ランボーやヘルダーリンを彷彿とさせる、青春期のたゆたうような精神の「彷徨」が率直に表現されていると言えるだろう。また。『不安』では、「宿命」的な「病」への罹患体験 を経て、作者はその奥に「原罪」を見出していく。「眼に見えなく/形のないものが/僕の背中に横たわっている/それは/ずっしりと重く/動かない」―― 「不安」とは、無根拠に人間の精神を蝕み、苦しめ、抑圧するものである。それを作者は「原罪」と読み替えて解こうとしているのである。

*表題作『天国の地図』は、「死」という非日常の実感を「日常」世界に取り込んでしまった、作者にしか表現することのできない、洒脱で、距離感をもった作品と言えるだろう。
実際には余人の想像を大きく上回る苦しみであったに違いない。だが、作者は自己を「他者」として捉える視座を保っており、詩文には見事な距離感が達成されているのである。重みと痛切さの中にも洒脱さが感じられる所以である。
同様の苦しみの中にある読者なら大いに勇気づけられるだろうし、それ以外の人々も深く共感することだろう。


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ジャンル: 本・雑誌

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