下町

 わたしが初めて料理を覚えたのは小学1年(6歳)の時だった。昭和30年代の事なので、料理と言っても現在のように豊富な食材がある訳でもなく、冷蔵庫や電気釜などもそれほど一般家庭に普及していなかった。
 その日に採れた物はその日の内に食べるというのが当たり前の時代で、食べ物を残す(粗末にする)などと言うことは「罰当たり」「目が潰れる」とさえ言われており、ご飯粒の一つでさえも貴重に扱われていた。
 カレーライスがご馳走で、バナナやパイナップル等の果物は贅沢品であり、病気で入院した時などにお見舞いの品として頂くか、婚礼などのお祝い時でないと口に出来なかったほどである。
 家庭料理と言えば「おふくろの味」と一般的に呼ばれているが、2012年11月4日の記事「病院食は父親の味」で既に料理について触れているのでご存知の方も多いと思う。母親の味と言うものを全く知らずに育って来た代わりに、祖母や父が作る夕餉の支度を見たり手伝って来たので、「おふくろ」ではなく「親父の味」と言ったところか。
 先ず初めに覚えたのは「米の研ぎ方」だった。米を洗うのではなく研ぐ…は、「命を研ぐのと同じ」と祖母から教わり、米の有り難さを身体に教え込む意味も含まれていた。幼いわたしにそのような哲学的意味合いなど理解出来る筈もなかったが、とにかく美味しく炊き上げる為の最も基本的な事だけは理解出来た。
 そして次に覚えたのが「味噌汁」。当時の味噌は八百屋に行って、樽の中に入っている味噌を計り必要な分だけ買って来るのだが、野菜や魚介類にしても保存の効かない食べ物はその日一家団欒の卓袱台に並べられる訳で、しかも採れたてだから新鮮で味もこの上なく美味だったと思う。
 調味料と呼べる物は「味の素」くらいだっただろうか?後は鰹節に醤油で十分事足りたのである。時間に追われる多忙な現代人にとっては、利便性が最も重要なファクターになっている為、様々な冷凍食品やレトルト物がスーパーやコンビニの棚を賑わせており、各食品会社もこぞって新製品の開発や販売促進に力を注いでおり、この状況は今後も更に熱を帯びてエスカレートして行く気がしてならない。
 物が豊富に溢れ返る現代社会では、財力さえあればどんな物でも手に入れる事が出来る。家庭では食べられないような高級料理でも、銀座辺りの料亭に行けば舌鼓を打つことも実に容易い事であるが、その一方では毎日数万トンに及ぶ食べ物が捨てられている現実がある。
 食べる事は生きる事であるが、この最も必要な食に関して言えば現代人は贅沢になり過ぎそれに甘んじて来ているような気がしてならない。もう一度食事の在り方について自分自身に問い掛けてみる必要がありそうだ。
 さて、すっかり前置きが長くなってしまったが、本日の主役は「下町の台所ごはん」管理人のマムチさんである。彼女が主婦の友社からレシピ本を出版すると聞いたのは、4月21日に「RED ZONE」で行われたライブであった。
 出版の件は記事「音楽が時空を超える時」で既に触れている為、ご存知の方も多い筈であるが、それから僅か3ヶ月でレシピ本が出来上がり、全国の大手書店に並べられている事に同じ出版経験のあるわたしとしては驚くばかりであった。
 マムチさんがいつ頃出版契約を結んだのか定かではないが、契約から書店配本まで少なくとも半年は掛かる筈なので、そのスピードに「さすが商業出版やる事が早い」と頷いてしまった。
 8月5日、三井記念病院へ行く途中に大手書店が2店舗あったので、初めにブックマート「書泉」に立ち寄り、料理本の並んでいる辺りを探し回ったが見当たらず、次に寄ったのがヨドバシカメラ秋葉原店の7階にある「有隣堂」だった。
 実はわたしあまり本を読まない質で、本を探し回るのは10年振りくらいになる。うつ病と診断された時に「うつ」関連の本を50冊ほど読み込んだが、それ以来の事でしかも「レシピ本」。詩や小説などを書いている自分としては文学系の本を読むべきだろうと思ったりするが、実用書となれば話は大きく変わって来る。
 心臓病を患い、厳しい食事制限があるわたしにとっては日々の食生活は命にも関わって来るため、非常に重要性が増して来る。この病気の為にこれまで多くの事を諦めて来たが、入院を何度も重ねて行く内にそれは更に深刻さを増して行った。
 生きる上で最も重要な食生活であるが、病気はその食事の楽しさまでをもわたしから奪い去ろうとしている。レシピ本なら色々と豊富な料理本が出版されているから、マムチさんの本でなくてもよいのでは?と思うだろうが、入退院のタイミングとマムチさんのレシピ本が出版される情報を耳にしたのが同時期だった為と、自分が欲しているレシピ本が「下町の台所」に在ったからである。
 書店の入口辺りに幾つかの料理関連の本を見つけたがその中には見当たらなかった為、書棚の各コーナーが設けてある実用書関連の中の「料理本」コーナーに行って見ると、ご覧の通り上の画像のように「マムチの下町の台所バル」と題された本が平積みされているのを発見。
 何だか自分の本が並べられているような気がして心が踊り嬉しくなった。そして1冊手に取り会計口へと向かった。
 書籍の殆どには帯と言う物がカバーの上に付されている。この「帯」は書籍を目立たせる為には非常に重要なポイント(部分)であり、料理に例えれば「隠し味」と言ったところだろう。
 本のタイトルも帯と同様に重要であり、タイトルだけで購入を決める客も多い。彼女の本の良い所はわたしたちが最も身近に感じている「台所」と言う部分。何処の家庭にも必ず「台所」はあり、人間が家族で暮らし始めた遥か昔から「台所」は家の中心として存在して来たのである。
 ひと昔前であれば「台所」は女性の神聖な領域と言われて来たが、それも今では過去の話で、現在は料理を作る男性も増えて来ており、台所は女性だけのものではなくなった。
 彼女の旦那さんもギタリストであり、そしてマムチさんも一流の女性ギタリストである事は周知の事実であるが、楽器をやる人は手先が器用だから料理も上手と単純に結び付けてしまいそうだが、器用なだけで数多いメニューを作る事は出来ない。
 料理は頭脳戦でもある。献立を考える時の女性の頭の中では家計の事から出費に関する事まで瞬時に計算されて行く。慣れと言う物もあるだろうが、それは長年積み重ねて来た経験が培ったものであり、銀座の料亭では味わえないその家の食文化そのものでもある。
 このレシピ本でわたしが最も目を引いたのは、「下町の台所流ズボラ飯④」。炊飯器で同時に調理、料理経験はあっても性格のせいなのか、殆ど役に立っていないわたしみたいな者にとっては実に有難いレシピである。
 見ているだけでも十分楽しめるレシピ本、それが「下町の台所」なのである。食生活が心を豊かにしてくれるのは昔からの事であり、ありふれた食材を利用してそれを見た目も中身も美味しく頂けるようにしてくれるマムチ流家ご飯…あなたの心にもきっと届くレシピ本。
旨っ!早っ!安っ!マムチの下町の台所 絶賛発売中。
2013年7月24日発売 主婦の友社 本体価格1300円。
ISBN978-4-07-289377-7

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俊樹
Posted by俊樹

Comments 17

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みゆきん  

お早う♪
私の頭には早っ美味っ安っのレシピが沢山
いつもブログにUPしようと思うけど、作ろうと思った途端に行動してる
気が付けばテーブルに並べてます
なのでデジがなかなか出来ないの(≧m≦)ぷっ!
私って料理も裁縫も不得意だけど、謙遜ね~(*^^*ゞ
今日も暑いね
夏を楽しみましょ♪

2013/08/11 (Sun) 08:02 | EDIT | REPLY |   
マムチ  

俊樹さん、こんにちわ~

わぁ♪こんなに素敵に紹介をしていただき
もう胸の中がジーーンと熱くなって、うるうるしちゃいそうです!!
本当にありがとうございました^^v

私が料理を両親から習ったのは、小学3年生の時で
やはり「米の研ぎ方」から教わりました(笑)
その次に味噌汁、野菜の皮のむき方や切り方・・でした!!
調味料も醤油をベースに、味の素がよく登場していましたよ(笑)

それから食べる時は、必ず正座をして食べさせられました(笑)

俊樹さん体調の方はどうですか!?
暑さが続いて、体調を少し崩されているとの事・・
水分補給を忘れずに、お部屋も涼しくして無理しないようにして下さいね!!
まだまだ暑い日が続きますので
どうぞご自愛下さいますように。。

2013/08/11 (Sun) 08:44 | EDIT | REPLY |   
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2013/08/11 (Sun) 09:05 | EDIT | REPLY |   
ネリム  

おはようございます。
ネリムです。

読んでいると
今現代がいかに恵まれていて、食べ物の有り難さを感じます。

2013/08/11 (Sun) 09:28 | EDIT | REPLY |   
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2013/08/11 (Sun) 17:33 | EDIT | REPLY |   
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2013/08/12 (Mon) 02:11 | EDIT | REPLY |   
ミイコ  

俊樹さん、はじめまして。ミイコと申します。

料理本にも色々ありますが、「旨っ!早っ!安っ!」というタイトル、忙しい主婦を惹きつけますね。
私も買ってみようと思います。

ところで訪問いただいて、ありがとうございます。
私もお邪魔してますが、本を書いていらっしゃるんですね。
深い内容をすらすら書いておられて、毎回考えさせられます。
よろしかったら、相互リンクをお願いできませんか?

2013/08/12 (Mon) 07:23 | EDIT | REPLY |   
みゆきん  

こんにちは♪
料理は苦手だけど、父の為に現在は、その道のエキスパートです(* ̄m ̄)プッ

2013/08/12 (Mon) 11:42 | EDIT | REPLY |   
ストロベリーアンドラズベリー  
レシピブック

こんばんわ
いつもコメありがとうございます。体調、悪いみたいですが、大丈夫ですか?暑さがピークだから体調くずしやすいですね。私もめまいがしてしんどいですね。
俊樹さん、小1で料理を覚えたのですか。早いですね。私は小4で初めて料理をしまして、目玉焼きを作りました。

中学に入ってバレーボールクラブ、ギターを始め、バンドやりだしてからはあまりしなくなりました。

今は、夜勤のない仕事になり、少しだけ余裕がでくたから食費節約のため、料理頑張ってます。

俊樹さんも今まで大変でしたね。

私もマムチさんのレシピブック、ブログで知り、ずっと楽しみにしてました。

そして、食べたくなるものばかりでどれを作ろうか迷います。

中学時代からファンを続けて応援していました。
ブログで再会、レシピブックを手にしてよかったです。ギター&料理の器用さに尊敬します。
私は器用でなく、ギターも下手です。メニューを考えるのが苦手な私には強い味方で、勉強させていただいてます。

2013/08/12 (Mon) 21:26 | EDIT | REPLY |   
koh  

コメントありがとうございます。
この暑さですので、体調管理は難しいですよね。
どうぞご自愛くださいね。

2013/08/12 (Mon) 23:16 | EDIT | REPLY |   
みゆきん  

おっは~
今日は地獄の蓋が開く日なので、ちょっと忙しいです
弁当作って送り返す日まで、無言の応援かも?
俊樹さんもご先祖様を返り討ちにしてね(≧m≦)ぷっ!

2013/08/13 (Tue) 07:03 | EDIT | REPLY |   
nyamia  

6歳の頃からお料理をなさってたんですね
お話伺って同世代かも?って思いました^^

食べる事は生きる事、本当にそうですね
母や祖母が作ってくれたお料理はもちろん
食卓を囲んで交わされる会話、家族の表情
全てがひとつとなってその人を形成していくのだと思います

私の母はお料理の上手な人でした
って今も生きていますが(^^;
今は自分が作る立場ですがみんなの「美味しい♪」が
聞けるよう日々頑張っています(^^)v

俊樹さん昨日はコメントありがとうございました(^^)

2013/08/13 (Tue) 08:42 | EDIT | REPLY |   
shin36a  


こんにちは コメント欄あったんですね

気づきませんでした 分かりずらかった

2013/08/13 (Tue) 18:57 | EDIT | REPLY |   
koyuri  
日々、忙しくて‥‥

ゆっくり書店という暇のナイ日が続いてます。

加えて、調理師免許が泣いていると思う日も多くて‥‥

再来年になったら、少しゆっくり出来るかなと、それだけを心待ちにしています。

2013/08/13 (Tue) 20:33 | EDIT | REPLY |   
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2013/08/14 (Wed) 01:58 | EDIT | REPLY |   
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2013/08/14 (Wed) 08:52 | EDIT | REPLY |   
TORU  

お邪魔します。ご飯って、日々の体を作っているわけですからね。本屋さんで探してみます。私もよく自分でご飯をつくるもので、、、。暑いですから、暑いときのご飯を。ご自愛ください。

2013/08/17 (Sat) 13:58 | EDIT | REPLY |   

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